妄想の箱庭

時に、何者でもない存在になりたい、と思うことがある。

日常に疲れてしまい、僕を捨ててしまいたいと思う。

僕という個を捨てて、物になってしまいたいと思うことがある。

全身タイツに身を包み、素材になることが出来たなら。

顔が出ているタイツにしようか、顔まで覆ってしまおうか。

色はどうしよう。顔もタイツに合わせて塗ってしまおう。

僕は僕でなくなり、誰かのための素材になる。

例えば白いタイツなら、僕は粘土のように捏ね回され、

その人の好きな形に作り替えられていく。

視線の先では、同じように素材になった誰かが、同じように捏ね回され、

組み立てられて物になった。僕はそれをただ、黙って見ている。

うらやましい、という感情を抱くこともあるだろう。

けれども、その時の僕は誰かのための素材だから、物も言わず、

ただ黙ってそれを見ているのだ。

時に、見知らぬ素材と共に捏ね回され、物になる日もあるのだろう。

時間が来たら、僕達はまた個を取り戻し、雑踏の中へ消えていく。

さっきまで素材だった者達は、互いの素性を知ることなく、個人へと戻っていくのだ。

またいつか、素材として使われる夜を求めて。

 

実際、そんなプレイは一度もしたことがない。

これはただの妄想だ。

こんな話が出来る相手もいない。

ただ僕は迫る現実から少しだけ逃避するために、

あてどない夢に浸るのだ。

一緒

三つ子の魂百まで。

幼い頃に目覚めた性癖は、大人になっても変わらなかった。

全身タイツ、仮装、メッシー、着ぐるみ、顔ストetc...

この中で、実際に着たこと、体験したことがあるのは全身タイツだけだが、

いつか同好の士と内緒で楽しみたい、と思うことがある。

 

これも幼い頃からで、一緒にしたいという想いが強かった。

例えば、着ぐるみ。生き物や道具の着ぐるみを着て、一緒に動き回りたいと思っていた。

例えば顔スト。パンストを被り、めくれ上がった唇や上向きになった鼻、

不細工になった顔を見てもらう。相手のパンストと上で結んで、引っ張り合う。

例えば、仮装。全身タイツを着てドーランを塗り、物に成りきる。

道具として使ってもらう、などなど・・・。

 

これは全て内緒だ。

社会に溶け込んで暮らしている、暮らしているつもりの僕が抱えた密かな願望である。

いつか、同好の士とともに楽しむことが出来たら。

そうした想いを胸に秘め、僕は今日も普通の人として生きている。

敷居

フェチに対する敷居が下がることは、良いことだと思う反面、各々のモラルが今まで以上に問われることになる、と思う(あくまでも個人的見解)。

過去に比べ、情報を手に入れやすくなり、発信もしやすくなった昨今、ゼンタイをはじめとしたフェチの方々と繋がる機会が増えたように思う。

そして、自分の世界を表現する方法も増えた。

だからこそ、自分の中で"越えてはいけないライン"を明確にしておく必要があると、そう思うのだ。

フェチに性に繋がる部分がある以上、なおさらだ。

 

そしてもう一つ。

全てをおおっぴらにする必要はないよ、と思っている。

界隈以外の誰かに打ち明けなくてもいい、自分の中で大切に持っていれば良いと、そう考える。

あなたの中にあるフェチの世界が、あなたにとって安住の地で、大切な隠れ家で、心の置き所になりますように。

 

いつも以上に取り留めのないブログ。

深海の光

フェチの世界は深い。

僕が常々感じていることである。

フェチ、という広い世界の中に、個々人が独自の世界を持っていて、それぞれが淡い光を放っている。

僕はそれを、浅瀬でのぞき込んでいるだけなのだ。

その光は美しくもあり、恐ろしくもある。だが、大変に魅力的だ。

このまま眺めているだけで満足だ、と思う自分もいれば、一緒に泳ぎたいと思う自分もいる。

浅瀬にいるだけの自分が一緒に泳ぐことで、その美しい光を消してしまうことにならないだろうか、そう思う自分もいる。

それは、深みに潜ることが出来ずにいる自分の、臆病者の我が身かわいさ故の言い訳だとも思う。

 

いつか縁あって、深海から手を差し出されたときに、僕はその手を取ることが出来るのだろうか。

ともに泳ぐ者になることが、出来るのだろうか。

いまだ、答えは出ないでいる。

匂い

"顔が見えなければ、誰でも良いのでは?"

全身タイツフェチという性癖を打ち明けたとき、こう問われたことがある。

 

決してそんなことはない。一枚の布に愛おしい貴女が包まれている、同じ癖を分かち合っているというのが、たまらなく嬉しいのだ。

布に浮かび上がる表情、身体を重ね合わせたときの柔らかさ、ぬくもり、声。そして、布の内側から染み出る匂い。

特に匂いというのは、強烈なイメージとして貴女に結びつくのだと思う。

首筋、脇の下etc...

湧き上がる貴女の匂いを、僕の内部にまで染みこませよう。

貴女は恥ずかしがるだろうか。それとも、嬉々として身体を押しつけるだろうか。

そのどちらでも嬉しいのだ。

離れているときでも、着ていないときでも、貴女の匂いを嗅いだとき、あの日の快楽を思い出せるように。

貴女が脱ぎ捨てたパンストに、ゼンタイに包まれて、繭のようになってみたい。

貴女にも同じように、僕の匂いに包まれて繭になって欲しい。

生まれ出る欲望は、どんな姿をしているのだろうか。

姿

今でこそ少なくなったと感じるが、当時は顔出し全身タイツや顔出し着ぐるみを着て出演する、コントやバラエティが多かった。

幼い僕はその姿を見ながら、ひっそりとその身を捩らせていたものだ。

録画する、という事を覚えてからは、片っ端から録画して見直した。

それは、面白いからという理由ではもちろんない。

同じ姿になりたい、という想いからだ。

昆虫をはじめとした、生き物の着ぐるみ。顔出し全身タイツで顔を塗り、物になりきる。顔面パンスト、パイ投げetc...

 

だが、その姿を誰彼構わず見せつけたいわけではないのだ。

その快感を分かち合える方にだけ、その姿を見てもらいたい。

2人で同じ姿になり、お互いの姿を目に焼き付ける。

そのとき僕らは、どんな姿をしているのだろう。

想像しただけで、僕の身体は火照ってしまうのだ。

僕がゼンタイで魅力を感じる場所の1つに、"口"がある。

ゼンタイを着たままキスをするシーンが、たまらなく好きなのだ。

布の下で、相手を求めて蠢く唇と舌。

布を通して交換される唾液。

布越しでも伝わる、相手の匂い。

優しく、激しく、相手を求める口元はとても魅力的だ。

 

唾液で張り付き、息苦しくなりつつも、相手を求めるのは止められない。

濡れた口元から漂う貴女の匂いが、僕をまた駆り立てるのだ。